保険診療のキャンセル料、自院は取れる? 取れない医院がホームページに書くべきこと
「2026年6月の制度改正で、保険診療でもキャンセル料を取れるようになった」。
そう聞いて、自院のホームページにもキャンセル料の案内を載せようと考えた先生も多いと思います。ただ、実際に取れるのは届出をした一部の医院だけで、多くの医療機関は対象から外れました。背景には、はっきりした理由があります。
それでも、取れない医院にも、無断キャンセルに備える道は残されています。
鍵になるのは、無断キャンセルを減らす工夫と、いざというときのお断りの方針、そしてそれをホームページにどう書くかです。
この記事では取れない理由から順に解説し、最後にホームページへそのまま使える案内文をお渡しします。
Contents
保険診療のキャンセル料が、多くの医院で取れない理由

医院が保険診療のキャンセル料を取れるかどうかは、予約料を届け出ているかで決まります。
当初は、保険診療でも取れる、という話だけが広まりました。きっかけは、2026年3月の通知です。
3月の通知で「取れるようになった」と広まった
この通知は、2026年3月27日に厚生労働省が改正した「療養の給付と直接関係ないサービス等」の通知(保医発0327第7号)です。
保険診療とは別に、掲示と同意があれば患者さんから実費を受け取ってよいものを並べたものになります。おむつ代・テレビ代・文書料などが並ぶこのリストに、今回、次の4項目が加わりました。
- Wi-Fi利用料
- 多言語対応費用
- 予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料
- 予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料
このうちキャンセル料については、こう書かれています。
条文をそのまま読むと、条件は3つに見えます。予約に基づく診察であること。患者都合の直前キャンセルであること。事前に説明して同意を得ていること。
届出が必要だ、とはどこにも書かれていません。
これなら、予約制の自院でも取れる。そう受け取った先生は、少なくないはずです。正直なところ、記事を書いている私自身もそう思っていました。
「予約に基づく診察」は、ふつうの予約制とは違う

多くの医師が見落としていたのは、条文の冒頭にある「予約に基づく診察」という言葉です。これは、ふだん使う「予約制」とは意味が異なります。
保険診療では、保険のきく治療と保険外の費用を一緒に請求できません。その数少ない例外が、選定療養です。
差額ベッドや金属床総義歯と並ぶこの選定療養に、「予約に基づく診察」も含まれます。患者さんから「予約料」を受け取るために、厚生局へ届け出て行うものです。
今回のキャンセル料は、この予約料に付け足された決まりです。予約料という土台があってはじめて、成り立ちます。
名前が似ているだけに、ここを取り違えるのは無理もありません。
5月の疑義解釈で「届け出た医院だけ」と確定した
2026年5月29日に出された疑義解釈で、はっきりしました。
保険診療のキャンセル料を取れるのは、予約料を届け出た医院だけだということです。
では、予約料を届け出ればいいのか。
そう考えたくなりますが、届出の要件は、思いのほか細かく決められています。
主なものだけでも、次のとおりです。
- 予約時間から30分以内に診察を始める
- 予約料を取らない診療時間を、診療科ごとに2割ほど設ける
- 予約の患者さんと、そうでない患者さんを分けて扱う
- 予約は、患者さんの自主的な選択による
- 医師1人が1日に診る予約患者は、おおむね40人まで
必要なのは、要件を満たすことだけではありません。様式3での届出と、毎年の定例報告も求められます。
届出の体制を組むのは、多くの医院にとって簡単ではありません。
実際に届け出ている医院は、ごくわずかです。
キャンセル料を取れない医院は、どうすればいいか

キャンセル料を取れないと分かっても、できることはあります。
そもそも多くの医師がキャンセル料の徴取を考えたのは、悪質な無断キャンセルを減らしたいからのはずです。お金を取れなくても、いくつか対応方法があります。
まず、無断キャンセルそのものを減らす
リマインドや予約確認で、無断キャンセルはある程度減らせます。
すでに手を打っている医院も多いはずですが、抜けているものがないか、確かめてみてください。
- 前日のリマインド……SMSやLINEで前日に一声かけると、うっかりの無断キャンセルが減ります
- 予約時の案内……予約完了画面や確認メールに、変更やキャンセルは前日までに連絡してほしいと書いておきます
- 連絡しやすい導線……電話だけでなくLINEなどでも受け付けて、連絡のない無断キャンセルそのものを防ぎます
あわせて、空いた枠を埋める工夫も、損失を小さくします。
キャンセル待ちの患者さんに繰り上げの連絡をする、来院の途切れている患者さんに再受診を案内する、といった方法です。
それでも続くなら、次の予約を断る
減らす工夫をしても、無断キャンセルを繰り返す人は出てきます。
保険診療のキャンセル料を取れなくても、そういう相手に対しては、次の予約をお断りする、という打ち手があります。「無断キャンセルが続く場合は次回以降の予約をお受けできないことがある」と方針を決めておくものです。
これはお金を受け取る話ではないので、選定療養の届出があるかどうかは関係ありません。
問題は、どこからを「繰り返し」とみなすかです。
半年で2回など、回数と期間を先に決めておきます。基準があれば、その場で迷うことも、患者さんごとに扱いがぶれることもありません。決めた内容は、スタッフ全員で共有するようにしましょう。
「無断が続いた患者さんは、次回から当日予約のみ」。こうした形をとる医院もあります。枠を先に押さえないので、無断のたびに空き枠が出ることはありません。
ただし、ここで関わってくるのが医師の応召義務です。
正当な理由なく診察を断ってはいけないという決まりで、無断キャンセルがあっただけでは正当な理由になりません。当日予約のみにする形が成り立つのも、診察を断っているのではなく、予約の取り方を変えているだけだからです。
届出がなくても受け取れる費用が、2つだけある
ここまでは、保険診療の診察をキャンセルされたときの話でした。これとは別の枠組みで費用を受け取れる場面が、2つあります。
どちらも予約料の届出は要りません。
1つめは、自由診療のキャンセル料です。
自由診療のキャンセル料は今回の改正とは関係なく、もともと設定できます。医院と患者さんの契約で決まるものだからです。届出をしていない医院でも、自費のメニューについては従来どおり設定できます。
2つめは、検査で使うはずだった薬剤の代金です。
今回の改正では、診察のキャンセル料とは別の項目として、患者さん都合で検査がキャンセルになり、用意した薬剤が使えなくなった分の実費請求が認められました。事前の説明と同意があること、金額は実際に生じた損害の範囲までにとどめることが条件です。キャンセル料の名目で上乗せはできません。
ただし2つめが当てはまるのは、予約に合わせて薬剤を用意する検査をしている医院だけです。〔造影CT・MRI、内視鏡の前処置など〕を行っていなければ関係ありません。1つめも自費メニューがあることが前提です。保険診療だけで、当日まで薬剤を用意しない医院には、どちらも使えません。
ホームページに、キャンセル料の何を載せ、何を載せないか

ここまでお伝えした、減らす工夫とお断りの方針を、そのまま使えるテンプレートにします。
載せるもの、載せないもの、そして載せてしまった場合の直し方を示します。
載せるもの① お願いとお断りを、一つの案内文に
※「お受けできないことがあります」と「緊急性のある場合は、この限りではありません」。この2か所は、書き換えたり削ったりしないでください。前の章で見た応召義務に関わります。

正直なところ、こうしたページを、患者さんはあまり読みません。まして無断キャンセルを繰り返す人ほど、まず読みません。読ませて抑止する文面ではない、と最初に割り切ってください。
それでも載せる意味は、二つあります。
一つは、予防です。
無断キャンセルの多くは、悪質な常習ではなく、善良な患者さんのうっかりです。前半の「前日までにご連絡ください」は、その人たちに効きます。予約確認やリマインドと一緒に届けば、うっかりはかなり減ります。
もう一つは、断るときの足場です。
常習者をお断りする場面で、「ホームページにこう書いてあり、カルテにも記録があります」と示せてはじめて、お断りが筋の通ったものになります。読ませて止めるためではなく、断るときの拠り所になります。
載せるもの② 自由診療のキャンセル料
自由診療のキャンセル料に、届出は要りません。
自由診療は医院と患者さんの契約で決まるものだからです。
ただし、自由診療の場合、一律のテンプレートを作るのは困難です。金額も条件もメニューによって変わるので、雛形を埋める形にはできません。
参考として医院が文章や費用を考える際に、決めるべきことを順に挙げます。
メニュー単位で決める:カウンセリングの枠を押さえるだけの予約と、材料や器具を先に手配する施術とでは、キャンセルで生じる負担が違います。
予約の時点で同意をもらう:あとから請求するのは通りません。予約規約に金額と条件を書き、予約前に読める場所に置く必要があります。
金額の決め方は顧問弁護士に相談する:実際にかかった費用をどこまで含められるかは、施術の内容や予約の取り方によって判断が変わります。文面を作る前に、一度確認しておいてください。
載せないもの 届出がないのに「キャンセル料◯◯円」
保険診療のキャンセル料を取れるのは、選定療養の予約料を届け出ている医院だけです。届出がないまま金額を掲げれば、取れない費用を取ると告知したことになります。
請求していなければセーフ、とはいきません。書いてある時点で、患者さんにも、指導する側にも、そう読まれます。
抑止のつもりで載せた一行が、指摘される一行に変わる。得るものはありません。
3月の通知を見て、「6月から患者都合のキャンセルには料金をいただきます」と出した医院も少なくありません。
ただ、届出をしていないなら、その告知は下げてください。
下ろすだけで終わらせず、載せるもの①に差し替えます。金額の告知を案内文に置き換えれば、無断キャンセルへの備えは残ります。
まとめ:自院のタイプ別・キャンセル料への対応方針

保険診療のキャンセル料は、ほとんどの医院で取れません。届け出ていれば取れるものの、当てはまるのはごく一部です。
それでも、取れないなりにやれることはあり、その内容は自費のメニューがあるかどうかで変わります。
- 保険診療が中心の医院……リマインドで無断キャンセルを減らし、繰り返す相手には応召義務に配慮したお断りを用意する
- 自由診療のメニューを持つ医院……保険診療分は取れないが、自費分は従来どおり取れる。メニューごとに金額と条件を決め、予約規約として書面に残す
どちらの場合も、患者さんに示す場所はホームページです。
お断りの方針も自費のキャンセル料も、書いて初めて根拠になる一方、何をどこまで書けるかは応召義務や保険のルールで決まっていて、誤れば応召義務に触れたり、取れない金額を掲げたことになったりします。
しかもそのルールは、3月に通知が出て5月には訂正されるという短さです。医院の側にも、この整理を受けて選定療養の予約料の届出を検討し始めるところが出てきており、届出まで進めばホームページに載せる内容も変わります。書いて終わりではなく、直す日がまた来ます。
つまり必要なのは、ルールに沿って書くことと、ルールが動いたら直すことの2つです。ゼロメディカルは、医療広告と保険診療のルールを踏まえた文面づくりから、制度が動いたときの見直しまでお手伝いしています。自院に何を書けばいいか迷ったら、一度ご相談ください。
※本記事は、2026年7月時点の通知・訂正に基づいています。
株式会社ゼロメディカル・主任Webライター
1988年生まれ。大学卒業後、教育分野と出版業界での経験を経て、2016年、株式会社ゼロメディカルにWebライターとして入社。これまでに、歯科医院、動物病院、クリニック、整骨院など、医療分野を中心に、200人以上の経営者を取材。1000以上の記事を執筆した経験を持つ。医療分野のほか、教育、法務、AI分野への造詣も深い。現在、人にしか書けない独自の記事を追求中。




