国の不正防止審査がより厳しく!整骨院の保険診療の実情
国家資格である柔道整復師が施術を行う整骨院では、原則として一部の施術に保険が適用できます。
「病院よりも身近で親しみやすい」「家から近く通いやすい」といった理由から、骨折や外傷の手当で整骨院を選ぶ人も多く、こういう人達にとって療養費制度(整骨院の保険制度)はなくてはならないものです。
一方で、患者が施術院に手続きを委任する特例制度を利用した保険診療の不正請求も問題となっています。
このような事態を受け、厚生労働省は不正請求の監視体制を強化する計画を策定。
「一体どこが変更されるのか?」その中身について詳しく見ていきます。
Contents
横行する不正請求、厚生労働省がメス
柔道整復師が施術を行う接骨院では、骨折、不全骨折、脱臼、打撲、捻挫の5つの症状に限り、施術に対して保険を適用することができます。(骨折・脱臼は緊急の場合を除き医師の同意が必要)
出典:厚生労働省 柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて
保険制度は医療機関とは異なり、患者が窓口でいったん全額を支払った後、患者自らが自己負担分以外を請求する「償還払い」が原則。
ところが、整骨院では、患者が手続きを施術院側に委任する特例措置が認められています。
患者が窓口で支払うのは自己負担分のみとなるため、この「療養費受領委任払い」制度の利用する場合が多くなっています。
患者側からすると煩雑な手続きをしなくても済むというメリットがある一方で、施術者側が患者に代わり手続きを行う際、虚偽の内容で申請する療養費の不正請求が大きな問題となっています。
実際にあった不正
・施術の回数を水増しして請求
・保険が適用されない「肩こり」や「腰痛」などの症状を「捻挫」と偽って請求
厚生労働省によると2014年までの5年間で、保険料の不正請求などの理由で施術管理者の資格を取り消された柔道整復師は148名、返納された療養費はおよそ5億7千万円に上っています。
さらに2015年には患者ぐるみで療養費を不正請求したとして、暴力団組長らが詐欺容疑で逮捕されるという事件も発生しています。
このような事態を受け、厚生労働省は再発防止に向け対策を強化していく方針を決定。
請求内容を審査する整復審査会の権限の強化、指導・監査に当たる地方厚生局の人員増強などの基本指針を示し、平成29年度中から順次実施していく方針であることをを明らかにしました。
出典:社会保障審議会 (医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会)
具体的に何が変わる?検討されている対策
具体的にはどのような不正対策が盛り込まれているのでしょうか。
基本的な指針としては、地方厚生局の体制の強化、柔整審査会の調査権限の強化、そして2つの機関の連携の強化。
より多くの不正の証拠をつかみ、迅速に通報できる体制を整えることで、指導・監査の強化を図る方針です。
柔整審査会の権限強化
柔整審査会の権限が強化され、保険料の不正請求の疑いがある整骨院に対し領収書の発行履歴やカルテの提出を要求できるようになります。
また、柔整委審査会が支給申請書の内容について照会を求められるようにし、施術管理者に対し直接回答を求めることができるようになります。
より多くの証拠を収集し、保険料の不正請求を未然に防止していくことが狙いです。
「部位転がし」を審査の重点項目に追加
審査要領に「部位転がし」が重点項目として加わります。
「部位転がし」とは、保険適用外の肩こり等に対して、打撲や捻挫と偽って施術を繰り返す手口。
負傷の名称や、施術回数、受療期間の傾向が審査の対象になります。
指導・監査の迅速化
収集した情報から不正請求の疑いが強いと判断された整骨院について、柔整審査会が直接地方厚生局へ通報することができるようになります。
通報を受けた地方厚生局は該当整骨院に直接立ち入り調査を行い、不正の実態を確定させます。
受領委任の取り扱いの中止、指導・監査・受領委任の中止を受けた旨の公表などの対処が行われます。
また、地方厚生局の人員を増強し、指導・監視体制を強化、対応の迅速化が図られます。
金品の授与により得た患者への施術を支給対象から除外
整骨院が集合住宅や介護施設の事業者に金品を提供して患者の紹介を得た場合、その患者への施術は療養費支給の対象から除外されます。
健全な運営を損なうとして医療機関に課されていたルールが、柔道整復師にも適用されるようになります。
これらの各項目は関係する協定・契約を改正した後、平成29年度中に実施される予定です。
また審査内容を明確化し、支給申請書の様式が統一されます。従来の申請書は平成29年度中までとし、平成30年度からは新しいレイアウトの申請書を使用する必要があります。
広告表現の監視強化も検討
同審議会では、今まであまり議論がなされてこなかった「整骨院の広告表現規制」についても改善策が検討されています。
医科・歯科医院の広告表現作成の指針として『医療機関広告ガイドライン』が知られている一方、医療類似行為である柔道整復では明確なガイドラインが存在せず、『柔道整復師法』や『景品表示法』などが「整骨院で許される広告表現」の基準となっていました。
ところが、インターネット上のホームページは一般的に広告に含まれないという見方から、整骨院等のホームページには明確な基準が示されてきませんでした。
(景品表示法違反の摘発は存在します。)
今回の審議会では、こうした「ウェブサイトを含む広告作成のガイドライン」を新たに作成していくことが議題にあがりました。
今後しばらくの間は、厚生労働省などから公表される最新情報に目を光らせる必要がありそうです。
新たな成長戦略が必要
「部位転がし」などの不正が横行した背景には、整骨院の価格競争があると考えられます。
柔道整復師の数は年々増加し、平成26年には過去最高の6万3千人余り。それに伴い施術所の数も増加し続けています。
圧倒的な価格の低さを売りに訴求を図る整骨院が患者負担分を療養費に転嫁できる「部位転がし」はそのような事情を背景として広がったと考えられます。
「部位転がし」を含む保険金の不正請求は今までも処罰の対象でした。
しかし、今後はさらに監視の目が厳しくなるでしょう。行政側も不自然に価格の安いマッサージなどを利用しないように注意喚起を促しています。
今年度から来年度にかけて大きく変わる『整骨院』の在り方。他方、依然として新規参入は増え続け、少ないパイを奪い合っているのが現状です。
ホームページの活用方法を含め、改めて一から戦略を考え直す時期なのかもしれません。
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