歯ぎしりをボトックス治療で緩和してくれる歯科医師 野本恵子先生

直撃インタビューinterview

先生のプロフィールを教えてください

日本歯科大学を卒業したあと、都内の歯科医院で様々な経験を積みました。そして、埼玉県春日部市に夫と一緒に「のもとデンタルクリニック」を始めたのが平成元年です。その後、東京都の西小山に品川診療所を開業。また、ノーブルデンタルオフィスの亀井勝行先生とメディプランを設立し、2017年4月にチャーミーデンタルクリニックを開業しました。特徴としては、すべての場所で、むし歯や歯周病の治療だけではなく審美や美容歯科にも力を入れていることだと思います。

なかでも、特に重視しているのは、患者さんの噛む力を弱くするボトックス治療です。いままでに数々の症例を経験し、よりボトックス施術を普及させたいという思いから、歯科医師向けに様々なセミナーを開いています。ほかにも、最近ではヒアルロン酸治療のセミナー講師や、歯と認知症の密接な関係など一般の方に向けての勉強会も積極的に行っています。

歯科医師を目指したきっかけは?

親戚に医療関係のお仕事をしている方が多かったので歯科医師は身近な存在でした。
ただ、私たちの世代というのは「女性は家にいて働かなくても大丈夫」という考えがほとんど。女性は女子大に進むのが当たり前で、女子高からきちんと花嫁修業をして……そういう時代でした。女性の人の職業と言っても幼稚園の先生ぐらいでしたね。

けれど、中学生の時に、初めて女性の眼科医にかかることがあったんです。母に連れられて行った銀座の医院でしたが、とにかく驚きました。まわりに医療系は多いと言っても女性のお医者さんはいませんでした。きびきびとして働いている女性の姿に、将来仕事を持つことがあったら「こんな人になりたい」「こんな風に仕事をしたい」と思ったことを覚えています。一言で言うならば「憧れ」ですね。

将来は医療に携わりたい。それを、高校三年生の時に親に打ち明けたんですよ。最初はもちろん反対されました!でも、親戚に歯科医師が多かったのもあって、歯科医師ならとしぶしぶOKをもらったんです。医療以外の職業は考えられませんでした。たぶん、そこには昔からしていたボランティアの経験があるんだと思います。ボランティアで大切な考えを知っていますか?それは「してあげる」のではなくて「させていただく」こと。させていただいたということで得られる喜びは普通の仕事では得られません。

そういった意味で医療の仕事もボランティアと似たところがあります。だから、親の反対を押し切って歯科医師という仕事に就いているのも含めて「私にしか出来ないことをさせていただくこと」を常に考えています。歯科医療に携わっている方には、インプラントや矯正など技術が巧みだったり、最新の機器を持っていたり、様々な立場があります。そこを比べることは出来ません。ただ、「私が一番誇れることは何だろうな」って考えたときに一つだけ確かなことがあります。それは。本当の意味でその人の立場に立って、患者さんに寄り添い、一緒に悩んで最良の治療を目指して進んでいけることです。

歯ぎしりボトックス治療を始めたきっかけは?

最初のきっかけは、治療した歯がすり減っている。自信があった自分の作る技工物が壊れていく違和感だったと思います。患者さんのほうでも、「詰め物が取れてしまった」などの不具合を繰り返しているようでした。だから、様々な勉強や知識を積み重ねる内に、原因が噛み締めや歯ぎしりによるものだとわかり、何とかしなければ、と思ったんですね。そのときに出会ったのがボトックス治療です。マウスピースによって治していく方法もありますが、それでも駄目なことのほうが多いんです。そして、いま非常に患者さんは増えています。デスクワークやスマートフォンの使用などで前頭姿勢気味の方が多いですよね。耳の位置が本来は肩の位置に来ないといけないのに、ズレている。ストレスも間違いなく関係していると思いますし、そう考えると噛み締めはある種の現代病かもしれません。

さきほど私にしか出来ないことと言いましたが、ボトックス治療をより強く普及しなければと思ったのは、ガンと闘った母のことも関係しています。実は入院中、丁寧な口腔ケアを続けていたのにもかかわらず、母は歯根破折を起こしてしまったんです。新しく抗がん剤の治療をするために、お口の中をレントゲン撮影してわかりました。

今から思うと認知症のお薬であるアリセプトが原因だったのかもしれません。アリセプトは、アセチルコリンの放出を促しているといった報告があります。アセチルコリンが放出されればされるほど筋肉の収縮を促し、緊張状態は強くなります。入院のストレスとアセチルコリンの問題、今となっては本当のことはわかりません。ただ、歯根破折は母にとって、たかがお口一つだけの問題ではありませんでした。歯根破折があったために感染症の危険性を指摘され、免疫力が下がるまでは抗がん剤を投与できなかったからです。アリセプトを飲みながら、ボトックスの注射も可能だったと知ったのは母が亡くなった後でした。母にもボトックス治療をしてあげたかったなと今でも後悔しています。

もちろん、ボトックス治療をやるかやらないかは自由です。でも、知っていることと知らないことには大きな違いがあります。特にいまは二人に一人がガンになる時代。それまでも患者さんに対して、丁寧な説明はしていました。けれど、母の身に起こった出来事をきっかけに、詰め物の脱離、歯根の病気、入れ歯の痛み、歯根破折の予防がボトックス治療で出来るんだよと強く伝えるようになったんです。これからもそのことを言い続けていくことが母から残された宿題だと思っています。

ボトックス治療を受けるメリットを教えてください。

たとえば、噛む力が強い人は、下の前歯が短くなる傾向にあります。そういう傾向があるならば、打った方が良いとお伝えします。歯の根を割らないため(歯根破折をしないため)、歯槽膿漏を進めないためにも必要なことだからです。ほかにも緊張状態が原因で毛細血管が圧縮し、血流が悪くなったときに起こる障害はたくさんあります。「肩がこる」「首がこる」だけではなく、糖尿病、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まることも知られています。食いしばりによる弊害は、歯を抜くことや入れ歯になってしまうということを超えた問題なんですね。

ただ、噛み合わせが強ければみんなが打つべきだとは思っていません。たとえば、同じ骨格で同じ噛み合わせの強さを持つ人がいたとします。そのときに、神経のない歯がいくつあるのかで治療方針は変わってきます。お口の中に補綴物が何本入っているのかでも選択するものは変わるでしょう。

神経を抜いているということは歯の中に入っている動脈や静脈も取るということですよね?つまり、血液の流れがなくなったということでもあります。本来人間の身体は血が循環しています。ということは、血液が途切れると普通は死んじゃうわけです。

でも、歯だけは硬組織に守られているので腐りません。その代わり徐々に、弱くなっていきます。だから、その歯が神経を抜いてどれぐらい経過したのかでも脆さが異なってくるわけですね。

患者さんによくお話しするのは、私の好きなハナミズキの例えです。まず、ハナミズキを蹴っ飛ばして折ろうとしたとします。でも、地面の中から栄養素をもらって、水分があるから決して折れません。それが台風かなにかで根こそぎ栄養素が持って行かれたとしたらどうでしょうか?その直後は同じように蹴っ飛ばしても折れないかもしれませんが、時間が経ってパサパサになると少しの衝撃であっという間に折れてしまいますよね。

もうひとつわかりやすいのがベニヤ板の例です。ベニヤ板に対して同じ力で同じ釘を打ったとします。古い板の場合、木目に沿って割れた経験はございませんか?あれは木が既にかさかさになってしまっているからです。でも、新しい板ではそのようなことは起きません。

この二つの例は神経のない歯でも同じです。そして神経のない歯には被せ物が被せてあります。その上物が銀歯なのか、金歯なのか、セラミックなのかで硬さが変わってきます。当然、硬度があるほうが割れやすくなります。残念ながら一番硬いのは保険の銀歯です。もうおわかりいただけたのではないでしょうか?ボトックス治療の目的は顔を小さくすることでも、皺を取ることでもありません。歯の根を割らない、歯根を吸収させない、痛みをとることを目的としています。

ボトックス治療における診療方針を教えてください

ボトックス治療は受けるか受けないかで言ったら受けた方がいいのは間違いありません。でも、私たちは必ず打ちましょうという言い方は絶対にしないんです。治療を決定する権利はすべて患者さんにあると思っているからです。

その原点を教えてくれたのは海外ボランティアの経験でした。いまも、ベトナムでのボランティアには娘を連れて行っていますが、初めて行ったときの出来事は今も強く胸に刻み込まれています。

日本の歯科診療は「虫歯になってもできるだけ歯を残そう」という方針を取っているところも多くなっていますよね。ベトナムでは違います。「これは治療できるな」という段階の疾患でも、上から言われて歯を抜かなければなりませんでした。それがとっても心が痛くて。あるとき、抜かなくていいのではと言ったんですね。そしたら、言われました。「先生、この子たちの生活環境を考えたことがありますか?」と。
ハッとしました。私たちは毎年、同じところに行くわけではありません。いま、治療できても三か月後や半年後はわからないわけです。そのときに、もしその歯が神経まで達してしまっていたら……、そのときには治す人がいないわけです。現地の感染症や衛生面を考えたら、今抜くのが一番の治療だと気づいたんです

私は医学的に優れている最新の治療が最良の治療であると信じていました。でも、よくよく考えると日本においても子育て中だったり、闘病中だったり、介護をしていたり、経済的に苦しんでいたり、つらい心の病を抱えていたり、そのひとの事情がありますよね。ベトナムでの出来事は私に心の底から、環境に応じて患者さんが選べる治療が最良の治療なのではないかと、考えるきっかけとなりました。

ある治療が必要と思われる人にはやる・やらないに関わらずきちんと話すことを大切にしています。どんな患者さんが来られても均等に説明をすることは出来るからです。治療の良い面と悪い面を全部お伝えし、もしわからないことがあったら、私たちも一緒に悩みますから頑張って考えてみましょうとお伝えいたします。ボトックス治療に関しても同じです。もし、打たないという結論ならば、では、いかにリスクを減らしていくのかを考えるのが当院の方針です。予防歯科なのか、被せ物を変えるのか、口腔内のマッサージをするのか必ず次の選択肢を提示することが、歯科医師の使命だと思っています。

今まで治療を受けた患者さんの反応はどうですか?

歯科に関連することよりも、まず筋肉が楽になりましたという方が多くいらっしゃいます。筋肉は自分で縮めることは出来ても、勝手には伸びない構造です。この頃は整骨院などで「筋膜リリース」といった施術が流行っていますよね。確かに、腕などは筋膜で守られているから効果があると思います。けれど、顔の筋肉は筋膜で覆われていません。ということは、筋肉が交錯していて筋膜リリースが出来ないんです。結果として、食いしばりは顔全体の筋肉に影響し、頭痛も引き起こしてしまいます。ボトックス治療を受けた方で整体に通っていた患者さんは、身体の柔らかさが全然違う!と驚かれたそうです。あらためて身体って全部繋がっているんだなと教えられました。ほかにも、朝起きたときに身体が軽い。睡眠の質も良くなったなどの声も聞くんですよ。

もちろん美容的な側面も期待できるでしょう。たとえば、唇が曲がっていて、いじわるそうな顔になってしまった女性が柔らかい笑顔を取り戻したり、シワが改善したり、血流が改善され肌が綺麗になったりといった喜ぶ声をいただきます。ただし、そのような効果は目に見えてわかりやすいのでクローズアップされがちという怖さがありますね。私は、美容は好きですが、ボトックス治療は美容目的のためだけに行うのではありません。そこだけが取り上げられてしまうのは本当に悲しいし、怖いことだなと思っていますね。あくまでそれは副次的効果としてそのような結果が期待できるというだけで、目的は歯の治療だと患者さんには繰り返しお伝えしています。

実は私たちは、何回も通ってもらえる方にアンケートを採ったんですよ。長く通っている方はどういうところにボトックス治療のメリットを感じているのかを知りたくて。そうしたら面白いことがわかったんです。長く続けている方はわかってしまったそうなんですね。自分で食いしばっていたという自覚症状があることに。これって肩の凝りが酷すぎる人やずっと体調が悪い人はそれが当たり前になってしまう現象と一緒です。では、わからないほうが良かったのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。以前の状態は明らかに身体全体に負荷をかけていて危険度が高かったというわけですから。

副作用の心配をされる患者さんに対しては、どのような説明をされていますか。

ネット上ではメリットやデメリットが過剰に宣伝されることがあります。「顔が曲がってしまうのではないか」「ボトックス顔になってしまうのでは?」「毒素を入れるんじゃないか?」と、そのような不安を持つ方はやはりいらっしゃいます。

確かに、ボトックス注射は、ドクターの技量によって結果が大きく左右されるので、治療を受ける際には十分に注意が必要です。けれど、それはボトックス自体が危険な訳ではありません。むしろ、ほとんどの方が知らないのは、小顔になるということの副作用でしょう。どういうことかというと、私の元に来られる患者さんは、何年も続けてボトックス治療を受けています。そして治療を続けると、打っていない部分と見比べて弛んだように見えてしまうんですね。

だから、本当の副作用は小顔になってしまうということです。残念ながら、そのデメリットは歯科分野にとっては関係の無いことです。顔が小さくなると言う副次的効果ではなく副作用をきちんとお伝えし、ご希望の場合は提携している美容外科の紹介も行っています。

それ以外にも私たちは安心してボトックス治療を受けていただくために、歯が欠けた経験、詰め物がすぐ取れてしまった経験、顎関節症の経験、歯にヒビが入ってないかなどの徹底的な検査、血圧、血糖値、家族の病歴などもきちんとお聞きします。説明に一番時間をかけ患者さんのお悩みなどを解決することを欠かしません。治療内容を理解して頂いたうえで選択して貰うことが最良の治療です。当日に治療に進むことは絶対ありませんので安心してお越しください。

最後に今後の展望を教えてください

ボトックス治療を始めたとき、歯科で行うのはどうなんだろう?という疑問の声もありました。患者さんに説明するときも難しくて「ボトックスって皺取りでしょ」と大変でした。その頃から考えると、確かに多くの方に広がっているように見えます。でも、本当の意味での普及はまだまだ。まずは、噛み締めの傾向があるといった方が気軽に歯科医院に来て欲しいですね。それは今のためではなく、将来のために大事なことだからです。朝起きると顔周りが凝っている、寝ても疲れが取れないといったお悩みでも構いません。

私たちの院では、ボトックス治療が年齢の問題で続かなかったり、経済的な理由で止めてしまったりする方もいらっしゃいます。やはりボトックスが不安で治療法として選択出来なかったケースもあります。それでも、そこで治療を諦めるようなことはしませんでした。保険を利用したマウスピースの作成や、血流を良くするための口腔内リンパマッサージなど一人ひとりに合わせた様々な別の道を提案いたします。たとえ、治療を止めても、自分の歯が抱えるリスクを知ってメインテナンスすることは一生健康な歯でいるために大切な事です。

私は過去に仕事を続けられないぐらい、重い病気で身体を壊してしまったことがあります。正直に言うと、このまま歯科医を続けるのは無理なんだなとあきらめたことも。それを乗り越えられたのは、もう一度患者さんを診させてもらいたいという思いでした。これからも、人に施すことの尊さ、母からの愛情、ベトナムでの経験すべてに感謝し、与えられた役割をまっとうするつもりで日々診療を行いたいですね。だから、お口のことで困ったときはどんなことでもご相談ください。お待ちしています。

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